平成28年度島根県獣医学会
キシラジン単独鎮静下における肋骨骨折不正癒合部開胸切除術
○嶋田浩紀1)、山本哲也1)、原知也1)、長崎雄太1)、足立全1)、岸本昌也1)、加藤大介1)、
佐藤礼一郎2)
発表者所属:1)(株)益田大動物診療所 2)麻布大学内科学第三研究室
1.はじめに:医療および獣医療領域において、開胸を伴う手術に対しては、人工呼吸器を用いるのが一般的である。今回、肋骨骨折を罹患した育成牛に対し、キシラジン単独鎮静下において開胸し、骨折不正癒合部位の切除を行い良好な結果が得られたので、その概要を報告する。
2.症例:交雑種、雄去勢、手術時7ヶ月齢の牛を用いた。該牛は初産牛産子であり、尾位上胎向にて娩出された。1ヶ月齢時に、発咳、喘鳴等の呼吸器症状を呈し、触診にて右側第一から第四肋骨の肋軟骨部の骨折を認めた。抗炎症剤、気管支拡張剤等にて加療したが、7ヶ月齢時に喘鳴に加え、第一胃鼓脹症を継発した。肋骨骨折不正癒合部位の圧迫による気管及び食道狭窄と診断し、当該部位の圧迫を除去するため、肋骨切除術を行った。
3.術式:キシラジン(0.3mg/kg)の静脈投与にて鎮静、倒臥後、左側横臥位にて右前肢を屈曲、外転し保定した。右側第二肋骨上の皮膚を切開し、浅胸筋、深胸筋、胸直筋を切開分離し、第一および第二肋骨肋軟骨部の骨折を確認した。骨折部位の骨膜は不明瞭であったため、骨膜剥離は行わず、肋間筋を切開し開胸した。開胸部より胸腔内へ線鋸を通し、気管、食道との位置関係を触診、目視にて確認しながら、複数回に分けて第一および第二肋骨を線鋸で切除し気管、食道の圧迫を取り除いた。開胸部は深胸筋、胸直筋で覆い、胸腔内を抜気し閉胸とした。
4.術後経過:手術翌日より、呼吸器症状の軽減を認めた。また、術創周囲の軽度の皮下気腫を認めたが、次第に吸収された。一般状態、呼吸器症状の改善、他疾病の継発を認めないことから、術後11日にて治癒とした。
5.考察:肋骨骨折に起因する気管狭窄、食道狭窄では、喘鳴音、第一胃鼓張症が特徴的な所見である。これらの症状は、前位肋骨の骨折部位が胸腔内へ変位することで発症すると考えられており、本症例では、第一から第四肋骨まで骨折を認めたが、原因部位と考えられる第一および第二肋骨のみの切除で、症状の改善を認めた。牛では縦隔が厚く強固なため、開胸時、反対側の肺の自発呼吸により手術が可能である。肋骨骨折不正癒合部位の切除など、一時的開胸が必要な場合、牛ではキシラジン単独鎮静下での開胸手術が可能で、膿胸や心嚢炎など他の疾病にも応用可能であると考えられた。