BVDV感染症の侵入はBVD持続感染牛(以下PI牛)によって、もたらされます。胎仔期(胎齢100日前後)に母牛がBVDウィルスに曝されると、その胎仔はウィルスに免疫寛容(簡単言うと免疫が働かなくなること。何だかいい意味のように聞こえますが……。)となり、生まれた子牛は終生ウィルスを増殖、排出するPI牛になるのです。
PI牛は無症状で経過するものもいますが、殆どの牛が生後間もなくから、肺炎、下痢を繰り返し発育不良となり、やがて死亡もしくは廃用の末路を迎えるのです。PI牛がパドックにいると、同居牛は常にウィルスに曝されることになり、よく熱が出たり、下痢したりします。当然採食量は落ち、増体も悪く、生産性は低下します。
このPI牛が酪農場や子牛生産繁殖牧場にいたらどうなるでしょう?。
妊娠牛に接触すると、流産させたり、それこそ妊娠100日齢の牛でしたら、新たなPI牛を生むことなり、最悪の負の連鎖を形成してしまうのです。
ではどうすればいいのでしょう?。
・先ず、PI牛を導入しないこと。導入元の清浄化が先決ですが……。
・現場獣医師、管理者によるPI牛の発見および淘汰。病弱牛、発育不良牛に対するいわゆる「気付き」
・肥育農場ではワクチンによる牛群全体の免疫強化。
などが考えられます。
しかし、簡単に淘汰といっても、生産者の大事な財産である牛を、泣く泣く処分というのは酷な話です。何とか、公的な助成があればと思うのですが。
無知・無策な現場管理者(獣医も含む)によって、図らずも、不幸の十字架を背負い、PI牛になってしまった、当の牛が気の毒です。ウィルスを保因することにより、病弱で発育不良となり、あげく死亡・淘汰されるのですから。
今年度は契約農場で5頭のPI牛を処分しました。
戦いはまだまだ続きます。
官民の連携で、自主淘汰に対する公的補助やPI牛の積極的発見、淘汰を行いBVDVを駆逐したいのですが……。
テレ朝の人気番組の「本当は恐い家庭の医学」ではないですが、
…………「放っておいたら大変なことになりますよ」
農場を蝕むダーティボム“生物兵器”BVDV感染症
2008.10.06|カテゴリー:診療日誌