尿石症といっても、陰毛に結石が付着し排尿があるものは、内服等で対応しますが、ペニス(尿道)に結石がつまり排尿停止となった患畜に対しては、外科的処置を速やかに実施します。病態が進むと、尿毒症(排泄されないアンモニア等の老廃物が体内に蓄積し、障害を起こす状態)となり、挙句にキャパを超えた膀胱は破裂し、腹腔内に尿が漏れ出し、死に至ります。
先日も松永牧場分場にて、4ヶ月齢の和牛に発生しました。触診で陰嚢基部のS字に屈曲したペニスに結石が確認できました。
どの疾病でもそうですが、出来れば疾病前の元通りの状態にしたいものです。特に尿石症の場合は肛門下に尿道瘻(尿の出口)を作る術式が一般的ですが、肛門から近いこともあり、糞に汚染される危険性が絶えずあり、容易に膀胱炎から腎炎に移行します。
ここで一計を案じます。
ペニスを直接切開し、結石を取り除いた後、膀胱麻痺が疑われ、自力排尿が困難と思われた場合、膀胱内にカテーテルを留置する術式を採用しました。
早速、手術に取り掛かります。
牛を仰臥状態に保定し、毛剃りし、陰嚢基部から肛門に向かって10cm皮膚を切開します。結合織を鈍性に剥離すると、程なくS字に屈曲したペニスが確認できます。ペニス内の結石を触知し、そこを慎重に切開します。結石を取り、膀胱に向かってカテーテルを挿入していきます。
カテーテルが膀胱内に到達すると、尿が排出されてきます。今回は血尿でしたので、尿閉になってからの時間が経過していたと思われ、膀胱麻痺が疑われます。
次に、そのカテーテルをペニス先端に向け送っていき、包皮の先端に露出させます。これで膀胱からペニス全体の尿通を確保できました。
結石を取り出した部位をペニス内腔のカテーテルを拾わないように慎重に縫合します。
術後数日間、排尿を確保したいので、膀胱にカテーテルを留置します。といっても牛用の排尿用バルーンカテーテルは市販されていないので、工夫しなければなりません。つまり、どこかに縫い付けなければならないのです。そこでペニス先端部分の包皮を切開し、先端から露出しているカテーテルに補液器具のジョイント用のゴムを取り付け、吸収糸のDEXONで外皮に縫い付けます。
これで、抜糸しないとカテーテルは抜くことは出来ません。カテーテル先端は包皮の先に3~4cm露出させます。以上で術式完了。
牛を立たせ、糖分補液してやるとカテーテルの先端から、尿が排出されます。
3日後、カテーテルを抜きました。術後10日が過ぎましたたが、発熱等、感染もなく経過は良好です。
尿石症発生!!ペニス温存、膀胱内にカテーテル留置に挑戦!?
2009.04.28|カテゴリー:診療日誌