先日、牛舎見廻りしていると、パドック内で四肢を投げ出し、一見リラックスしているように寝ている牛がいました。
『……何か変だぞ?』
すぐに立たせてみます。牛は頚部から胸部にかけ発汗し、後肢を引き気味に立ち、尾をしきりに振っています。明らかに疝痛を訴えています。
直腸検査してみます。案の定、膀胱は尿の貯留で拡張し、肛門直下の尿道は怒張し拍動しています。ポタポタ赤い尿が排尿されます。今回は便性状も正常でしたので、詰まってから時間もあまり経過していないものと思われます。通常の結石による閉塞の好発部位は陰嚢付近のS字状に屈曲した部分です。皮下脂肪の薄い育成牛では、触診により結石を確認できますが、今回の牛は19ヶ月齢で、コンディションも良好で閉塞箇所を確認出来ませんでした。
診断出来れば手術への決断は躊躇ありません。
素早く牛を保定枠に追い込み、剃毛し、術式開始です。
閉塞箇所は確認出来ませんでしたが、今回も陰嚢付近に結石が存在すると思われ、陰嚢から20cm上方の正中の皮膚を15cm肛門に向かって切開します。この部分に尿道瘻、つまり尿の新たな出入り口を形成します。皮下織を切り分け、表皮から15cm深くにある尿道を、術創外に露出させます。尿道を触診すると、尿で充満していると思われましたが、それほどでもありません。
「んっ。何か変だな?。」
次に、尿道に縦にメスをいれます。内腔に達し、尿が勢いよく排出されると思いましたが、殆ど出てきません。
「膀胱が麻痺してんのかな?。」
尿道の切開部分から、ペニス先端に向かってカテーテルを挿入していきます。程なく、通常閉塞している箇所を越え、包皮先端からカテーテルが見えてきました。
「てことは、詰まっているのは上の方???。」
次に、逆方向つまり、膀胱に向かってカテーテルを挿入していきます。約20cmほど、カテーテルを推し進めるとそれ以上いきません。どうやらここに結石があり、閉塞していると思われます。
写真を使って説明します。
尿道結石による閉塞は、その殆どが①の辺りですので、通常②の部分にペニスを縫い付け尿の出入り口を作ってやります。しかし、今回の症例は②から挿入したカテーテルが③の辺りで止まったので、ここに結石があると思われます。
診断が付いたので、躊躇なく③を中心に25cm切開します。この部分はペニスはより深い所にあり、今回の症例は月齢も進んでおり、ペニスに到達しても表皮まで露出させることは極めて困難です。て言うか、無理。そのため創口を助手が手で拡げます。
触診で結石を確認し、ペニスを切開し結石を摘出します。
摘出された結石は、そこそこ内径のある部位に詰まっていた位ですから、かなりの大物です。さぞ痛かったことでしょう。切開したペニスを吸収糸DEXONで丁寧に縫合します。尿道瘻を作るため切開した②の部分のペニスも縫合します。皮膚も縫合して術式完了。
ブドウ糖を輸液して、利尿を促してやります。
膀胱からカテーテルから、尿が止めどなくなく出てきます。
長時間に及んだ術式でしたが、牛が元のままで排尿できることが嬉しいですね。
病気の牛をみつけよう。尿石症(尿道結石)の巻。
2010.04.19|カテゴリー:診療日誌