病牛の早期発見は、その後の生産性のロスを最低限に抑えるために、最も重要なことと言えるでしょう。教科書に載っているような分かり易い所見ばかりでなく、類症鑑別に首を捻ってしまう症例に遭遇することはしばしばあります。
先日も、ペニス周囲の包皮周辺が腫れている12ヶ月の去勢の肥育牛がいました。
その牛は、疼痛を伴っているのか、不安げな表情で、採食量も落ちているのか腹囲も縮小傾向でした。ここで思い当たる病気を、頭の中で列挙し、症状と照らし合わせ、消去していきます。
写真のように包皮が腫れているものは、細菌感染によると思われる包皮炎か、尿道結石による尿道破裂が挙げられます。尿道破裂は破裂箇所から尿が漏れ出ているため、腫脹部位はやや波動感を感じますが、尿もポタポタ出ていることもあり、判断を鈍らせます。又、尿道破裂は尿が皮下に漏れ出ていることもあり、直腸検査をしても膀胱が尿の貯留によるテンションが高くなく(完全な排尿停止となるとパンパンに肥大した膀胱を触診できます。又、尿素の排泄が出来ないためいわゆる尿毒症の黄緑色粘液便を認められ、尿結石による尿閉は比較的判断は容易です。)、尿閉の指標となる血中BUNやクレアチニンも正常であることが多く、診断に迷いが生じます。
今回の症例はペニス先端周囲に腫脹が限定されていました。尿道破裂の場合は、腫脹が急速に拡大し、陰嚢から左右膁部下縁の下腹部の広範に及ぶことが多いので、今回の症例は包皮炎であると推察されました。
包皮先端を探ると、直径3cm大の角砂糖の様な結石を取り除くことが出来ました。痛そうですね。
その後はシース管を差し入れ、補液用カテーテルをつなぎ、抗生剤を混和した生理食塩水できれいに洗浄しました。すると、大小様々な結石や膿様の炎症性滲出物が認められました。
3日ほど、抗生剤の全身投与と結石溶解剤を経口投与しました。
程なく、ペニス周囲の腫れはなくなり、治癒しました。
ある地方で(島根じゃないですよ)、飼主の方が獣医に「包皮が腫れてるだけど」と診療を御願いしたところ……
「すぐに出荷してしまいなさい!」
と言われたそうです。何だか惜しい話ですね。
我々も、実際の現場で診断に迷うことはよくありますが、思い込みや勘違いを排除し、深呼吸のひとつでもして、症例に接するようにしています。
病気の牛をみつけよう。んっ!?尿石症?、包皮炎?の巻。
2010.04.06|カテゴリー:診療日誌