暑い暑いとある午後のひと時、契約農場のM牧場より診療依頼のTELあり。
「牛が腹蹴っているんだけど」
早速、現場に急行です。
「尿石かなぁ~、消化管の通過障害かな。」と思いを巡らしながら車を走らせます。
牛舎に着くと、既に牛は腹を蹴っていないものの、表情に落ち着きがありません。陰茎を刺激すると、排尿します。
聴診すると、第一胃の蠕動は停止しており、肋骨にかからない、左膁部下部において拍水音が確認されます。
「4変かなぁ~?。でも、ちょっと拍水音が後めだな。腹膜炎でもあるのかな。」
と補液をします。脱水もなく、排糞もあるので手術は翌日に段取りします。
で、翌日。
現場に行くと、牛の様子が変です。寝たまま中々起きようとしません。脱水はないけど、目に力がありません。
鎮静をかけ、術式開始です。
傍正中を切開し、腹膜を開け、腹腔を探索します。切開創から手を差し入れ変位している第四胃を整復していきます。幽門に近い大網を保持し、第四胃を探っていると、何やら、薄緑色の微細な繊維が混じった液体が腹水と共に確認されます。胃内容物の匂いです。
「うわぁ~!。胃内容物が漏れちゃっているよ~。指で開けちゃったのかなぁ~。やっちまったなぁ~。」
下手な自分を呪いながら、胃を整復していくと、大小のフィブリン塊が手に絡み付いてきます。
第四胃の大弯をみると、そこには、10円玉大の穿孔箇所がありました。周囲は赤黒く変色し、そこから内容物漏れ出てきます。牛の状態が悪いのはこのためです。
フィブリンの存在は昨日の穿孔が示唆されます。
術中に開けちゃったわけではないので、ちょっとほっとします。
穿孔部を吸収糸で縫います。
第四胃を整復後、腹壁に縫い付け、術式完了。
実は、この牛、1週間前に育成牛群から肥育牛群に新たに群編成されたものでした。
牛も人間と同じようにストレスを感じます。人間のようにポジティブシンキングしないので、ストレートに健康を害するという形で反映されます。
前日、腹を蹴っていたのも納得です。おなかの中にpH1~2の塩酸が漏れていたのですから、さぞ痛かったでしょう。
術後は少しづつ食欲も回復し、10日経ちましたが、ほぼ全快しました。
「ゲッ、マジィ~!?。内容物が出ちゃってるよ~。」胃穿孔内容漏出激闘編。
2011.08.11|カテゴリー:診療日誌